「中華民族の偉大な復興」というスローガンを掲げる現代中国は、世界の大国として大きな存在感を示しています。しかし、その歩みは決して平坦なものではありませんでした。1949年の建国以来、中国は社会主義の理想を追求する中で激しい混乱と対立を経験し、最終的には欧米諸国と同様の普遍的権威(近代科学・GDP・メディア)を見出すことで、現代の大国としての地位を築き上げたのです。
今回は、中国史が持つ「大一統」という伝統的なコントロール欲求が、天命に代わり共産主義という新たなイデオロギー、そして普遍的権威と結びつき、どのように社会を再構築していったのかを見ていきましょう。
建国初期:社会主義の理想と現実
1949年、毛沢東を主席とする中国共産党の一党独裁体制のもと、中華人民共和国が建国されました。西欧や日本といった列強に蹂躙された100年間を克服し、ようやく大一統の理念の下で中華統一を成し遂げますが、権威・権力・民衆の概念が以下のように大きく変わりました。
- 権威: 古来の「天」や儒教から社会主義思想に代わりました。
- 権力: 皇帝と科挙によって選抜された官僚は中国共産党員に置き換わりました。
- 民衆: 皇帝支配下の住民は、欧米由来の国民として再構成されました。
共産党は、新たな権威である社会主義思想に基づき、ソ連をモデルに土地改革を進めて地主階級を解体し、主要産業の国有化を図ることで、経済を国家の計画のもとにコントロールしようとしました。この初期の社会主義建設は、一定の経済回復をもたらし、民衆に新たな希望を与えました。
しかし、この社会主義建設は、やがて大きな失敗へとつながります。1950年代後半、毛沢東は急激な工業・農業生産の向上を目指す大躍進政策(1958〜1961年)を開始しました。鉄鋼生産を目標に各家庭で製鉄を行うなどの無理な目標設定は、かえって生産力を低下させ、大規模な飢餓を引き起こしました。この失敗は、毛沢東の指導力を揺るがし、後の文化大革命につながるきっかけとなりました。
また、中国共産党は社会主義国家の建設において、個人の国家への忠誠を最優先し、社会のあらゆる側面を統制しようとしました。そのため、国家の権威よりも宗族の結束が優先されることを嫌い、人民公社による宗族の否定を行いました。具体的には、宗族が所有していた土地の集団所有や伝統的祭祀の禁止、個人主義の奨励などを通じて、宗族の力を弱体化させたのです。
権威の再構築:文化大革命の混乱と終焉
大躍進政策の失敗で権力を失いつつあった毛沢東は、自らの権威を再確立するために、社会全体にコントロールを及ぼす最後の手段に出ます。それが、文化大革命(1966〜1976年)です。毛沢東は、党内の「資本主義の道を歩む実権派」を批判し、若者からなる紅衛兵を動員しました。
「造反有理(反逆は正しい)」のスローガンのもと、紅衛兵は権威者を攻撃し、伝統文化を破壊しました。この運動は、党幹部への大規模な粛清を伴い、10年間にわたる社会の混乱と停滞をもたらしました。これは、共産党のイデオロギーが絶対的な権威として機能し、その指導者である毛沢東がすべての権力と民衆を動員して、社会をコントロールしようとした、極めて特異な時期でした。しかし、この無秩序な暴力と破壊は、中国国内に深刻な打撃を与え、毛沢東の死後に終結しました。その後、鄧小平が権力を握り、中国は根本的な針路転換を迫られることになります。
「改革・開放」:経済発展を新たな権威に
1976年の毛沢東の死後、実権を握った鄧小平は、文化大革命の混乱を終わらせ、「改革・開放」政策を掲げました。鄧小平は、「黒猫でも白猫でも、ネズミを捕るのが良い猫だ」という言葉を残しています。「黒猫」は社会主義・計画経済を、「白猫」は資本主義・市場経済を象徴し、「ネズミを捕る」は、国の経済を発展させ、国民の生活を向上させるという目的を指しており、イデオロギーよりも実利を重んじる彼の姿勢を象徴しています。
この政策により、中国は市場経済を部分的に導入し、外資や技術を積極的に受け入れました。その結果、中国経済は飛躍的な成長を遂げ、「世界の工場」としての地位を確立しました。この経済成長は、人々の生活水準を劇的に向上させ、共産党の統治に対する新たな正当性(権威)となりました。
- 権威: 社会主義思想から生活水準の向上(科学技術・GDP・メディア)へ
- 権力: 中国共産党員
- 民衆: 国民
21世紀の中国:大国化と挑戦
21世紀に入ると、中国はさらなる経済成長を遂げ、2010年にはかつて中国帝国にとどめを刺した日本をGDPで追い抜き、アメリカに次ぐ世界第二位の経済大国に躍り出ました。この経済力を背景に、中国は軍備の近代化も進め、名実ともに世界の大国となりました。
さらに、中国はアメリカ主導の既存の国際秩序に対抗し、「中華秩序」を現代に蘇らせようとする試みも行っています。その象徴が、中国が設立または主導して設立した以下の主要な国際機関です。
- アジアインフラ投資銀行(AIIB): アジア地域のインフラ整備に必要な資金を供給する国際金融機関。アメリカや日本が主導するアジア開発銀行(ADB)や世界銀行に対抗する、または補完する役割を果たすことを目指しています。
- 新開発銀行(NDB): BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)が設立した国際開発金融機関。アメリカが最大の出資国である世界銀行や、グローバルな金融安定を担う国際通貨基金(IMF)に対抗する、またはそれを補完する役割を担っています。
- 上海協力機構(SCO): 中国とロシアが主導する地域協力機構。アメリカが主導する軍事同盟である北大西洋条約機構(NATO)に対抗する地域安全保障機構と見なされています。SCOは主に安全保障とテロ対策に焦点を当てており、中央アジアにおけるロシアと中国の安全保障上の利益を確保し、アメリカの影響力拡大を抑えることを目的としています。
現在の中国は、習近平総書記のもと、「中華民族の偉大な復興」を国家目標として掲げています。これは、中国史における「大一統」の理念に基づき、強力な中央集権体制を維持しつつ、経済的・軍事的影響力を拡大しようとする試みです。「一帯一路」構想は、グローバルなインフラ投資を通じて、中国の影響力圏を拡大する壮大な計画です。宇宙開発やAI技術への積極的な投資は、近代科学という新たな機能的権威を、国家の正当性として利用していることを示しています。
しかし、この強力なコントロールと膨張は、国際社会との摩擦も生んでいます。南シナ海問題、台湾問題、ウイグル人権問題などは、中国のコントロールと国際的な規範との間で摩擦を引き起こしています。
まとめ
かつての「天」に代わり、機能的な成果を権威とする現代中国は、歴史的な「大一統」というコントロール欲求を背景に、全世界に対してその強大な力を振るおうとしています。これは、伝統的な中央集権国家の枠組みに近代的な機能的権威を組み合わせ、新たな「中華秩序」を構築しようとする、中国にとっての「偉大な復興」の物語と言えるでしょう。
次回の記事では、大国となった中国が今後どのように統制を深め、アメリカを中心とする世界秩序とどのような衝突に直面していくのか、その未来像を探求します。お楽しみに!