人類の歴史は「不安」と「コントロール欲求」で説明できる!
「将来が不安だ…」
そう感じたことのない人はいないでしょう。なぜ私たち人間は、ここまで不安に苛まれるのでしょうか? 犬や猫が明日の生活を心配する姿は、あまり想像できません。
実は、この不安こそが、人類が地球上で最も繁栄した種になった理由の一つなのです。私たちの脳、特に前頭葉の進化がそのすべての始まりでした。
脳の進化が「不安」を生んだ
私たちの遠い祖先も、目の前の危険に対する恐怖を感じていました。ライオンに襲われそうになれば、心臓がドキドキし、逃げようとします。これは単純な生存本能です。しかし、人類の場合は前頭葉が発達したことで、予測する能力を手に入れました。
「来週は雨が降るかもしれない。食料が取れなくなるかも…」 「冬が来る前に、もっと暖かい洞窟を探さないと…」
このように、まだ起こっていない未来の危険を想像し、備えることができるようになりました。この「予測」という素晴らしい能力の副産物として生まれたのが、「不安」です。そして、この不安をどうにかしたいという強い気持ち、つまり「コントロールしたい」という欲求が、人類の歴史を動かすエンジンとなりました。
不安を乗り越えるための「言葉」と「社会」
不安をコントロールするため、人類はまず言葉を使い始めました。
言葉は、ただの音ではありません。「なぜ雨が降るのか?」といった疑問に因果関係で説明を試み、世界を整理しようとしました。それでも説明できない出来事には、「神」という言葉で名付け、儀式を行うことで「見えないものをコントロールする」という安心感を得ようとしたのです。
言葉は個人的な不安を和らげるだけでなく、集団のあり方も変えました。同じ言葉を共有することで、人類は同じ世界観や同じ神の物語を持つ仲間になりました。一人では太刀打ちできない猛獣も、仲間と協力すれば狩ることができます。
こうして、共通の不安を共有し、集団で協力して克服するための、人類最大の解決策である「社会」が生まれたのです。
「社会」をまわす仕組み
社会が大きくなると、全員が同じことを考えるわけにはいきません。そこで、社会を円滑に運営するための仕組みが生まれました。それが権威・権力・民衆という階層です。
- 権威: 人々が「これは正しい」「これに従えばうまくいく」と信頼し、自発的な行動を促す心の支え。人、組織、考え方、伝統、あるいは神などがこれにあたります。
- 権力: 集団を指揮し、指示を出すリーダー(頭脳としての役割)。
- 民衆: リーダーの指示に従って行動する人々(手足としての役割)。
この構造は、私たちが不安を抱いたときに、「どうすればいいか?」を自分一人で考えなくても済むようにする仕組みでした。私たちはこの仕組みに従うことで、何を信じ、どう行動すべきかという迷いから解放され、安心して生活することができたのです。特に権威は宗教という形をとり、生き方の規範を示す役割を担いました。
人類史を8つの時代で読み解く
人類の歴史は、「前頭葉が不安を生み出し、それを克服するために、言葉を使い、社会を作り上げてきた物語」だと言えます。
本ブログでは、この壮大な物語を理解するため、以下の8つの時代区分を用いて解説します。
各時代で「不安」「コントロール欲求」、そして「社会」(権威・権力・民衆)がどのように変化したかを探求することで、人類全体の普遍的な流れを読み解きましょう。
バンド社会(旧石器時代)
- 特徴: 血縁中心の数十人規模の移動型狩猟採集集団。
- ポイント: 自然環境の不確実性という不安に対し、アニミズムやシャーマニズムを通じて自然をコントロールしようとしました。シャーマンや優れた狩人が、最初の権威として機能し始めます。
部族社会(最終氷期後・農業革命)
- 特徴: 農業革命後の数百人規模の定住型社会。
- ポイント: 食料の安定確保という不安から、農業・牧畜によって自然をコントロールします。豊穣神や祖先崇拝といった、大規模な労働協力のための新たな権威が生まれました。
初期国家
- 特徴: 数千人から数万人規模の定住化と人口増加。
- ポイント: 大規模集団を効率的に管理したいというコントロール欲求が強まり、神意と結びついた権威が確立。資源配分や法を制定する権力が誕生し、社会の階層化が進みました。
国家
- 特徴: より広範で複雑な社会。
- ポイント: 広範囲な人々の統合と秩序維持のため、文字や貨幣といった抽象的なツールが開発されました。これにより、時間と空間を超えた協力が可能になり、具体的な神から普遍的な理念へと権威が抽象化されていきます。
帝国
- 特徴: 複数の政治体や民族を統合する広大な多文化国家。
- ポイント: 支配力と影響力の拡大というコントロール欲求が、常備軍という組織化された強制力を生み出しました。一神教・天命思想など、多様な民族を統合する権威が登場しましたが、異なる権威や民族間の衝突も激化しました。
帝国の再編
- 特徴: 西欧中心に、地球規模の新たな社会システムが形成された時代。
- ポイント: ルネサンス・大航海時代・宗教改革が、遠隔地の資源や人々をコントロールしたいという欲求を加速させました。国民国家という新たな国家体制が誕生し、資本主義やメディアといった機能的権威が台頭。これは帝国主義や二度の世界大戦へと繋がっていきます。
人類の現在
- 特徴: 主権国家を基盤とし、西欧由来の機能的権威が世界に拡散した時代。
- ポイント: 近代科学、資本主義、メディア、そして情報技術の発展により、人類のコントロール能力は飛躍的に高まりました。しかし、核兵器や環境問題、AIの急速な発展といった新たな問題に直面し、既存の権威が揺らぐ倫理的空白が生まれています。
人類のこれから
- 特徴: 現代社会の課題と、未来への展望。
- ポイント: 機能的権威がもたらすコントロールの喪失や逸脱に対し、私たちはどう向き合うべきか? 世界的な対話を通じて共通の倫理を構築することで、自らの力を未来の繁栄と持続可能性のために真にコントロールするための羅針盤を探求します。
各文明史への適用
この8つの時代区分で提示される「不安」「コントロール欲求」「社会」(権威・権力・民衆)というフレームワークは、特定の文明史を読み解く際にも有効です。各文明がそれぞれの時代でどのような独自の発展を遂げたか考察できます。
さあ、人類史の旅に出発!
このブログが、皆さんの人類史への理解を深め、現代社会を読み解く新たな視点を提供するきっかけとなれば幸いです。人類が歩んできた壮大な道のりを、私たちと一緒に探求してみませんか?
参考文献
ユヴァル・ノア・ハラリ「サピエンス全史-文明の構造と人類の幸福」河出書房新社(2016)
ロビン・ダンバ−「宗教の起源-私たちにはなぜ〈神〉が必要だったのか」白揚社(2023)
エリック・バーガー「残酷すぎる成功法則」飛鳥新社(2017)
※本ブログ記事は全体的に次の高校教科書及び用語集を参考にしています。
山川出版社「高校世界史」(2013)、東京書籍「世界史B」(2016)
山川出版社「世界史B用語集」、「日本史B用語集」