帝国3:中央集権国家の完成と貨幣経済の進展

中国史

前回まで、秦漢が築いた壮大な「中華帝国」のグランドデザインが、隋唐によっていかに再構築されたかを紐解きました。しかし、隋唐が確立した均田制に基づく自作農社会は、人口増加と土地の私有化の進行によってやがて機能不全に陥り、再び中国を混乱の時代へと向かわせることになります。

今回は、この大混乱を経て、いかにして中央集権体制が最終的な完成期を迎えたのか、そしてその完成が、その後の中国社会にどのような変革をもたらしたのかを探ります。

政治:皇帝と官僚による「中央集権」の確立 

唐王朝の滅亡後、中国は再び分裂の時代「五代十国」を迎えます。これは文字通り、北方に五つの王朝が興亡を繰り返し、南方に十の国が乱立した混乱期でした。この混乱は、皮肉にも次の時代を準備する重要な役割を果たしました。唐代に大きな力を持っていた門閥貴族が、相次ぐ戦乱の中で没落したのです。これにより、皇帝を脅かす存在がいなくなり、宋の時代に皇帝の権力は強化されました。

この権力強化を支えたのが、文治主義と呼ばれる統治方針です。宋の初代皇帝であった趙匡胤は、武官が軍事力で皇帝の地位を脅かすことを防ぐため、武官よりも文官を優遇しました。これにより、軍事力が厳しく統制され、皇帝と官僚を中心とした中央集権体制が確立されました。

この体制を支えたのが、再整備された科挙です。誰でも受験できるという建前のもと、皇帝は家柄にとらわれず、自分に忠実な官僚を登用することが可能になりました。特に、皇帝が自ら最終試験を行う殿試は、合格者と皇帝の結びつきをより強固にし、名実ともに中央集権体制を完成させました。

経済:自作農から貨幣経済、そしてグローバリズムへ 

政治の大きな変化と並行して、経済の基盤も大きく変わりました。隋唐が理想とした自作農を基盤とする均田制は機能しなくなり、土地の私有化が進みました。農村社会は、土地を所有する地主(形勢戸)と、彼らの土地を耕す小作人(佃戸)に分かれていきました。

この地主層から、やがて「士大夫」と呼ばれる新しいエリートが台頭します。彼らは経済力を背景に教育を受け、科挙に合格して官僚となりました。経済力を持った人々が、政治の中心を担うようになったのです。

この時代、農業技術の進歩と人口増加に伴い、商業が発展しました。大量の銅銭が流通し、中国は本格的な貨幣経済の時代へと突入しました。

【写真】中国国内で大量に出回った宋銭(日本でも大量に出回った)

貨幣経済とグローバリズムがもたらした社会変革 

宋の時代に始まった貨幣経済の発展は、その後の王朝でも止まることはありませんでした。宋を滅ぼした元は、遊牧民族であるモンゴル人による統一王朝であり、陸上貿易路(シルクロード)を通じて東西交流を活発化させ、貨幣経済とグローバルな商業をさらに推し進めました。

元を継いだ明は、一度は元のグローバリズムに反発し、自作農国家を目指しますが、これは時代の流れに逆らうものでした。やがて、日本やメキシコ(スペイン領)との貿易を通じて大量のが中国に流入すると、明は再び貨幣経済の波に乗ることになります。この銀の流入は、大航海時代にヨーロッパ人が世界中で獲得した富、特にメキシコやペルーの鉱山から採掘された莫大な量の銀が、中国市場に流れ込んだ結果でした。中国の絹や陶磁器といった高品質な商品が、世界中の銀を吸い上げる磁石の役割を果たしたのです。

この銀の流れに対応するため、税制が改革されました。複雑だった税を、土地税に一本化し、銀で納める一条鞭法が導入されたのです。さらに次の清の時代には、土地の面積と人頭税を一本化して銀納する地丁銀制が導入され、貨幣経済の発展に合わせた徴税システムが完成しました。これらの税制改革は、農村にも貨幣経済を浸透させ、農民の生活を市場に結びつけました。

まとめ:中華帝国の最終形 

土地の私有化とそれに伴う貨幣経済の発展は、中央集権国家の完成と密接に関連していました。国家は不安定な現物収入に代わり、安定した貨幣収入を確保できるようになり、この財政基盤の強化が、皇帝直属の募兵制を支え、地方の軍事力を抑えることにつながりました。

また、経済力で地位を築いた士大夫たちが科挙を通じて官僚となることで、皇帝は旧来の貴族に依存することなく、新たなエリート層を直接統制することが可能になりました。

秦漢が構想し、隋唐が再構築した中華帝国は、この時代に完成形を迎え、そのシステムは後の中国社会の基礎を築き上げました。宋代に確立された皇帝と官僚による中央集権国家は、その後の元、明、清へと引き継がれ、約千年間にわたる中国の安定を支えたと言えるでしょう。

しかし、安定した中華帝国は、西欧列強による帝国主義という大きな不安の渦に巻き込まれ崩壊していくことになります。次回は「帝国の再編」を解説します。お楽しみに!

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