帝国の再編4:帝国主義と二つの世界大戦

西欧史

人類史は、根源的な不安を克服し、世界を「コントロール」したいという飽くなき欲望の物語です。前回は、国民国家が生んだ帝国主義が、地球規模の膨張運動へとつながったことを見ました。しかし、この膨張は、やがて国家間の激しい対立と、人類史上未曽有の二つの大戦を引き起こすことになります。

ビスマルク外交から「世界政策」へ

19世紀後半、イギリス、フランス、そしてアメリカが帝国主義を推し進める中、後発のドイツ帝国もこれに対抗しようとしました。ドイツは、ビスマルクの時代には、外交手腕によってヨーロッパ内の勢力均衡を保ち、植民地獲得競争には消極的で、一貫してドイツ帝国の守りの姿勢に徹していました。彼は複雑な同盟関係を築き、フランスを孤立させることで、安定した国際秩序を維持しようとしました。

しかし、1888年にヴィルヘルム2世が皇帝に即位すると状況は一変します。ビスマルクを失脚させたヴィルヘルム2世は、「世界政策」を掲げ、植民地の獲得と海軍力の増強を積極的に進めました。これは、当時の世界的な覇権国であったイギリスの「3C政策(カイロ・ケープタウン・カルカッタを結ぶ植民地支配)」に対抗するもので、ドイツは「3B政策(ベルリン・ビザンティウム・バグダッドを結ぶ鉄道建設)」を推進し、中東への影響力拡大を図りました。

このドイツの積極的な膨張政策は、植民地で利害が衝突するフランスや、中東で南下政策を進めるロシアとの対立を深めていきました。さらに、海軍力の増強は、イギリスとの間に激しい軍拡競争を引き起こし、両国の関係を決定的に悪化させました。

第一次世界大戦:終わりの見えない総力戦

帝国主義の膨張運動が激化するにつれ、各国間の利害対立は先鋭化し、従来の国際秩序は機能不全に陥りました。そして、バルカン半島の民族問題が引き金となったサラエボ事件を契機に、複雑な同盟関係が次々と連鎖反応を起こし、第一次世界大戦という全世界規模の総力戦へと発展しました。

この戦争は、これまでの戦争とは大きく異なるものでした。

  • 近代兵器の登場: 重化学工業の発達によって、機関銃、毒ガス、戦車、潜水艦、航空機といった新兵器が実戦に投入されました。これらの兵器は、従来の戦術を無力化し、塹壕戦という泥沼の戦況を生み出し、甚大な死傷者を出しました。
  • 総力戦体制: 国家の存亡をかけた戦いとなり、軍人だけでなく、女性や子どもを含む一般市民もまた、兵器や食料の生産、資金調達といった形で戦争に巻き込まれる総力戦が繰り広げられました。
  • メディアの役割: ラジオや新聞は、プロパガンダを通じて国民の戦意高揚を促し、戦争を支える重要な役割を果たしました。愛国心や敵国への憎悪を煽り、戦争の正当性を国民に浸透させたのです。

この戦争は約3,700万人もの甚大な犠牲者を出しました。人類は、自らの「コントロール欲求」が生み出した技術と組織が、いかに破壊的であるかを初めて思い知らされたのです。

世界恐慌とブロック経済

第一次世界大戦後、国際社会は平和維持のための新たな枠組みを模索しました。ヨーロッパを中心にヴェルサイユ体制、アジア・太平洋を中心にワシントン体制が築かれ、軍縮や国際協調が進められました。そして、史上初の国際安全保障機構として国際連盟が誕生しました。しかし、アメリカが参加せず、強制力に乏しかったため、その機能は限定的でした。

一方、戦後の世界経済は、戦争特需によって世界最大の経済大国となったアメリカに依存していました。ヨーロッパ諸国が戦争で疲弊する中、アメリカは孤立主義を貫き、国土が戦場とならなかったことに加え、ヨーロッパへの戦費融資によって債務国から債権国へと転換していました。戦後のアメリカは、工業生産で全世界の42%を占め、全世界の金の半分を保有する圧倒的な経済大国となっていたのです。

しかし、アメリカ頼みの安定は長続きしませんでした。戦中から戦後にかけてヨーロッパから多くの資金がアメリカに流れ込み、国内投資に向けられました。その結果、行き過ぎた生産設備への投資が、需要の伸びを上回り、供給過剰が大規模に発生しました。この結果、商品が売れなくなり、投資資金の回収が困難になったことで、1929年の世界恐慌が発生します。

恐慌が波及した結果、各国は自国経済を守るための防衛策に走ります。まず、アメリカが高関税政策に踏み切り、他国もこれに対抗したため、自由貿易体制が崩壊しました。さらに、イギリスは多額の債務と金の流出を食い止めるために金本位制を停止しました。これにより、各国は高関税によって他国との貿易を遮断する内向きの自給自足経済へと移行していきます。これがブロック経済です。

第二次世界大戦:持てる国と持たざる国の対立

広大な植民地を持つイギリス、フランス、アメリカそして共産主義を掲げ計画経済を実践していたソビエトは、このブロック経済圏や自国での自給自足が可能でした。しかし、国土が小さく資源も植民地も少ないドイツ、イタリア、日本といった国々では、自国のみでの自給自足は不可能です。

そのため、彼らは独自のブロック経済圏を構築すべく、他国への侵略を活発化させます。これが第二次世界大戦へとつながっていったのです。

この戦いは、資源や植民地を持たざる枢軸国(ドイツ、イタリア、日本)が、持てる連合国(アメリカ、イギリス、フランス、ソ連、中国など)に挑む構図でした。当初、枢軸国側は善戦しますが、戦いが長期化するにつれて、圧倒的な資源と物量を持つ連合国が優勢となり、最終的には枢軸国の完敗に終わります。

第二次世界大戦は、第一次世界大戦を上回る推定5,000万人〜8,000万人もの犠牲者を出し、人類史上最も多くの犠牲を払った戦争となりました。さらに、この戦争では科学技術によって核兵器という大量破壊兵器が実戦に投入され、人類は相互破滅の危険性を初めて認識したのです。

まとめ

二度にわたる世界大戦は、国民国家と、肥大化した「コントロール欲求」が、いかに人類社会を破滅に導くかを鮮烈に示しました。

特に、科学技術の発展がナショナリズムと結びついたとき、人類は相互破滅へと向かう危険性を初めて認識したのです。また、資本主義という経済システムが、世界恐慌という形でいかに複雑で脆弱なものであるかを浮き彫りにしました。

二度の世界大戦を経て、世界の国際秩序は完全に再編されることになります。人類は、自らの飽くなき「コントロール欲求」が生み出した文明の光と影を直視し、より安定した未来を築くための新たな模索を始めることになったのです。

次回は、二つの大戦を経て再編された国際秩序、そして冷戦時代における新たな「コントロール欲求」の物語について解説します。どうぞお楽しみに!

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