帝国の再編3:国民国家が生んだ「帝国主義」という名のモンスター

西欧史

人類史は、根源的な不安を克服し、世界を「コントロール」したいという飽くなき欲望の物語です。市民革命を経て、人々は国民国家という新しいシステムを手に入れました。同時に、近代科学、資本主義、そしてメディアといった、複数の「機能的権威」が誕生します。

これらの要素が結びついたとき、西欧社会のコントロール欲求は、国家の枠組みをはるかに超え、地球規模の膨張へと向かいます。これが19世紀後半から20世紀初頭にかけて世界を席巻した帝国主義の正体です。

帝国主義を動かした国民国家の構造

帝国主義を理解するには、まず国民国家という新しいシステムの構造を再確認する必要があります。市民革命後、人々は主権を持つ「国民」となりましたが、当時の政治は、一定以上の財産を持つ男性による制限選挙が主流であり、産業資本家を中心とする富裕層が実権を握っていました。

この時代、権威・権力・民衆という社会の3層構造の一体化が進んだことで、帝国主義という膨張運動を生み出しました。

権威:膨張を正当化した3つの柱

まず、国家の膨張を正当化したのが、以下の3つの「権威」です。

  • 資本主義: 産業革命による利潤追求の論理が、海外での植民地獲得と支配を正当化する最大の根拠となりました。
  • 近代科学: 重化学工業が生み出す機関銃や戦艦といった新兵器が軍事的優位性をもたらし、力による支配を正当化しました。
  • メディア: 「文明化の使命」や「国家の栄光」といった言説を通じて、植民地獲得を美化し、国民の世論を形成しました。

権力:産業資本家と国家の結託

これらの権威を背景に、権力は産業資本家と国家の結託によって行使されました。工場制機械工業は新たな市場と供給源を求め、産業資本家を海外へと駆り立てます。彼らは巨大な独占資本を形成し、国力維持を目指す政府と結託。資本主義の論理が、国家膨張の原動力となったのです。

民衆:国民意識とナショナリズム

そして、この動きを支えたのが、国民意識に目覚めた民衆です。フランス革命以降、徴兵制などを通じて国家への忠誠心と連帯感を高めた民衆は、国家の主役となりました。彼らは、メディアが形成したナショナリズムの波に乗り、植民地獲得を自らの誇りとして受け入れていきました。

このように、権威・権力・民衆の一体化と、産業革命による経済構造の変化が、新たな植民地獲得へと向かわせたのです。これが、19世紀後半から20世紀初頭にかけて、先進資本主義国を動かした帝国主義の構造でした。

国民国家に対抗する後発帝国

イギリスやフランスそしてアメリカといった先行国が国民国家を核とする帝国主義を推し進める中、それに対抗するように台頭してきたのが、ドイツ、イタリア、ロシア、そして日本といった後発の帝国主義国です。

これらの国々は、下からの市民革命を経験しておらず、国民国家の形成が遅れていました。そのため、彼らは先行する列強に追いつくため、独自の道を歩みました。既存の国王(皇帝・天皇)を権威の頂点に据える形で国民を動員し、軍備増強と植民地獲得競争に参入したのです。

このような君主を頂点とする「上からの改革」は、市民社会が十分に発展しないまま、国民を君主への忠誠心を通じて統合しました。その結果、短期間で効率的に軍事力を強化し、先行国に追いつく形で植民地獲得競争に突入することになったのです。

帝国主義が作り出した世界システム

帝国主義という膨張運動は、産業革命を最初に起こしたイギリスから始まり、やがてフランス、アメリカ、ドイツ、イタリア、そしてロシアや日本が加わり、全世界的な規模に発展しました。

これにより、世界は主権国家とそれに従属する植民地という二重構造に再編されます。イギリスは圧倒的な経済力を背景に自由貿易を推し進めるとともに、金本位制を主導することで、資金が世界を循環する仕組みを作り上げました。こうして、国民国家を中心とした主権国家と植民地の二層構造が構築され、主権国家同士の自由貿易と金で貿易が決済される世界システムが誕生します。

しかし、このイギリス中心の世界秩序には大きな欠陥がありました。帝国主義が世界全体を巻き込む中で、各国の利害衝突が激化しましたが、その調整方法は古くからの国際法や勢力均衡という緩い仕組みのままでした。

こうして、クリミア戦争、米西戦争、ボーア戦争、日清・日露戦争といった大規模な戦争が各地で勃発し、最終的には第一次世界大戦という、人類史上初の全世界規模の総力戦へと発展していくことになります。

まとめ

国民国家が生んだ帝国主義は、世界を一体化させると同時に、終わりなき争いをもたらしたのです。次回は帝国主義の末路として発生した二度の世界大戦について解説します。お楽しみに!

補足:金本位制とは

発券銀行が通貨と金の交換を保証する制度。通貨は基本的に金準備量に制約されて発行される。貨幣の価値が何に由来するかは、歴史的に大きく二つの制度に分けられる。

  • 本位通貨制度:この制度では、貨幣の価値は金や銀といった実物に裏打ちされている。金本位制では、発行された紙幣がいつでも一定量の金と交換できることが保証されていた。つまり、貨幣の価値は、その交換可能な金の量という物理的な制約によって保証されていた。
  • 管理通貨制度:現在、多くの国が採用している制度。貨幣の価値は、特定の実物ではなく、政府や中央銀行の信用によって成立している。この価値は、その国の経済力や、通貨発行機関への人々の信頼というバーチャルな概念に基づいている。人々が「この紙幣は使える」と信じているからこそ、貨幣として機能する。

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