帝国の再編3:帝国主義と二つの世界大戦

西欧史

人類の歴史は、根源的な不安を克服し、世界を「コントロール」したいという飽くなき欲求の物語です。市民革命後、国民国家という新たなシステムと、近代科学、資本主義、そしてメディアという多元的な「権威」が誕生しました。これらの要素が結びついたとき、西欧社会のコントロール欲求は国家の枠組みを超え、地球規模の膨張へと向かいます。この飽くなき欲求が、どのように世界を巻き込み、二度の世界大戦という破滅的な連鎖を引き起こしたのかを、歴史の流れに沿って探っていきましょう。

帝国主義の台頭:権威・権力・民衆の一体化

権力としての国民:産業資本家の代弁者

市民革命後、人々は主権を持つ「国民」となりましたが、政治の実権は、一定以上の財産を持つ男性に限定された制限選挙によって、産業資本家を中心とする富裕層が握っていました。彼らは自らの経済的自由と政治的影響力を拡大するため、立法府を通じて自由貿易や海外市場拡大を推進しました。

この動きを加速させたのが産業革命です。工場制機械工業による大量生産を維持するため、新たな原材料の供給源と製品の市場を地球規模で確保することが不可欠となりました。投下資本を回収し倒産を避けるため、産業資本家は銀行の金融資本と連携して巨大な独占資本を形成し、海外進出を推し進めます。国家にとっても、産業資本家の利益を守ることは国力維持に直結したため、政府と産業資本家は一体となり、植民地獲得と直接支配を推し進めました。この段階で「権力」は実質的に産業資本家の代弁者として機能したのです。

権威としての近代科学・資本主義・メディア

国家が経済的利益を追求し、植民地支配を拡大する上で、近代科学・資本主義・メディアは権威としてその行動を正当化しました。

  • 資本主義(利潤):莫大な製品の生産は海外市場への独占的な進出を不可欠とし、資本の回収と利潤の最大化という経済論理が、国家の膨張を正当化する最大の根拠となりました。
  • 近代科学(軍事力):重化学工業の発展が機関銃や戦艦といった新兵器を生み出し、強大な軍事力は植民地獲得と支配維持の不可欠な手段となりました。
  • メディア(国民の世論形成):国民新聞や雑誌などのメディアは、「文明化の使命」や「国家の栄光」といった言説を通じて、植民地獲得を正当化し、国民の世論を形成しました。

民衆としての国民:国家の主役

フランス革命以降、民衆は「国民」という新たなアイデンティティを獲得しました。国家は「国語」の確立や学校制度の整備を通じて、共通の歴史や文化を共有する意識を育み、国民軍の整備によって国家への忠誠心と連帯感を強めさせました。こうして、民衆は国家と運命を共にする「主役」としての意識を持つに至り、メディアが形成したナショナリズムの潮流に乗って、植民地獲得競争を自らの誇りとして受け入れました。

      国民国家の実態

  • 権威  近代科学(軍事力)・資本主義(利潤)・メディア(国民の世論形成)
  • 権力  国民(産業資本家の代弁者)
  • 民衆  国家の主役としての国民

⇒権威・権力・民衆が一体化したのが帝国主義

世界を巻き込む対立:第一次世界大戦

帝国主義の膨張運動が激化するにつれ、各国間の利害対立は激化し、従来の国際秩序は機能不全に陥ります。これにより、バルカン半島の民族問題が引き金となったサラエボ事件を契機に、第一次世界大戦という全世界規模の総力戦へと発展しました。

この戦争は、重化学工業の発達による毒ガス戦車といった近代兵器の登場、そして一般市民をも巻き込む総力戦という点で、それまでの戦争とは大きく異なりました。3,700万人もの甚大な犠牲者を出したこの戦争は、人類が自らのコントロール欲求によって生み出した技術と組織がいかに破壊的であるかを示しました。ラジオや新聞などのメディアは、プロパガンダを通じて国民の戦意高揚を促し、総力戦体制の維持に重要な役割を果たしました。

戦間期の混乱と第二次世界大戦への道

第一次世界大戦後、国際社会をコントロールしようとする新たな試みとして国際連盟が誕生しましたが、強制力に乏しく国際秩序の維持には力不足でした。

戦後の世界経済は、戦争特需によって世界最大の経済大国となったアメリカに依存していました。しかし、1929年の世界恐慌がアメリカから発生すると、世界経済は混乱に陥ります。アメリカの保護貿易主義がイギリス主導の自由貿易体制を崩壊させ、各国は自国経済を守るためのブロック経済へと移行しました。

広大な植民地を持たないドイツ、イタリア、日本といった国々では、自国のみでの自給自足が不可能でした。そのため、彼らは独自のブロック経済圏を構築すべく他国への侵略を活発化させ、これが第二次世界大戦へとつながっていったのです。この戦いは、資源や植民地を持たざる枢軸国が、持てる連合国に挑む構図でした。ラジオや映画が主要なプロパガンダツールとして利用され、さらに科学技術によって核兵器という大量破壊兵器が実戦に投入されます。6,000万人から8,000万人もの犠牲者を出したこの戦争は、人類史上最も多くの犠牲を払った戦争となりました。

まとめ

二度の世界大戦は、国民国家と、肥大化した「コントロール欲求」が、いかに人類社会を破滅に導くかを鮮烈に示しました。特に、科学技術の発展がナショナリズムと結びついたとき、人類は相互破滅へと向かう危険性を初めて認識しました。また、資本主義という経済システムが、世界恐慌という形でいかに複雑で脆弱なものであるかを浮き彫りにしました。

二度にわたる世界大戦を経て、世界の国際秩序は完全に再編されることになります。人類は、自らの飽くなき「コントロール欲求」が生み出した文明の光と影を直視し、より安定した未来を築くための新たな模索を始めることになったのです。

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